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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)315号 判決 1970年6月18日

上告人

水本稔

代理人

幸野国夫

被上告人

下松津土地株式会社

主文

本件上告を棄即する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由および上告代理人幸野国夫の上告理由について。

所論指摘の事実関係に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、右認定判断の過程に何らの違法も存しない。上告人が昭和二一年五月一日被上告人から賃借して占有するに至つた土地が、等一審判決添付目録記載の区画整理前の本件土地二筆であることは、原判文上、その挙示する証拠と対比して明らかであり、所論の甲号各証は、必ずしも原審の所論の事実認定の妨げとなるものではないから、原判決がこれらの書証を判文上いちいち排斥し、または排斥する理由を説示することがなくても、これをもつて所論の違法があるとすることはできない。そして、占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきであり、原審の確定した事実によれば、前示の賃貸借が農地調整法五条(昭和二一年法律第四二号による改正前のもの)所定の認可を受けなかつたため効力が生じないものであるとしても、上告人の占有をもつて他主占有というに妨げなく、同旨の原審の判断は正当として首肯することができる。したがつて、民法一八六第所定の所有の意思の推定はくつがえされたものというべきであり、上告人が同決一八五条の規定により右占有の性質が変じたことを主張立証しないかぎり、上告人において本件土地を時効により取得したとする余地はないところ、所論の主張事実により占有の性質が変じたとすることができないことはいうまでもなく、上告人は他に同条の規定の適用を受けるべき事実関係を主張立証しないのであるから、原審が上告人において所論の期間所論の土地を占有したかどうか、またその占有が自主占有であるか否かにつき、いちいち判示することがなくても、これをもつて違法とすることはできないのである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、すべて、原審の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するか、独自の見解に基づき原判決を攻撃するに帰し、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 大隅健一郎)

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